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大阪高等裁判所 昭和49年(ラ)60号 決定

抗告人

グリーン産業株式会社

右代表者

渡辺勇蔵

抗告人

渡辺勇蔵

右両名代理人

金田善尚

相手方

松崎周司

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由〈省略〉

二当裁判所の判断

(一)  先ず職権をもつて本件抗告の適否について検討する。本件は管轄違を理由とする移送の申立を却下した原決定に対し、民事訴訟法第三三条により即時抗告を申立てたものであることは、抗告人らの主張に徴し明白である。右の如き管轄違を理由とする移送の申立を却下した決定に対して即時抗告を申立てうるか否かについては争いの存するところであり、管轄違を理由とする移送の申立は、単に職権の発動を促すに過ぎず申立権に基づくものではないことを理由として、右は同法第三三条の「移送ノ申立ヲ却下シタル裁判」に該当しない、とする見解も主張されているのであるが、右法条は、単に「移送ノ裁判及移送ノ申立ヲ却下シタル裁判」と規定し、管轄違を理由とする移送の申立を却下した本件の場合のように職権の発動を促すに過ぎない申立を却下した裁判を除外する趣旨を明らかにしていないのみならず、申立権のない場合であつても裁判所がその申立を排斥する裁判をした場合には、これに対して不服申立の途を開き、右裁判が誤つていた場合にはこれを是正する可能性を開いておく必要があり、殊に専属管轄に関する場合にはその必要は一層大なるものがある、というべきである。したがつて、本件の如く管轄違を理由とする移送の申立を却下した裁判は、右法条にいわゆる「移送ノ申立ヲ却下シタル裁判」に該当し、移送の申立を却下された当事者は、右却下の裁判に対して即時抗告をなしうるものと解すべきである。よつて、本件抗告は適法である。

(二)  そこで、抗告理由について判断する。

本件仮処分は商法第二七〇条に基づき取締役の職務執行停止及び職務代行者選任を求めるものであるから、その管轄は本案の管轄裁判所にあるところ、相手方(債権者)の主張によれば、本件仮処分の本案は株主総会決議不存在確認等の訴である、というのである。ところで、株主総会決議不存在確認の訴については商法に明文の規定はないが、決議不存在確認の訴訟形態が紛争解決に有用かつ適切である限りにおいてその訴の利益を肯認すべきであり、決議のもたらす法律効果が広く第三者に及ぶため、その無効確認判決には対世的効力を肯認する必要がある点において株主総会決議無効確認の訴と何ら異ならない点に鑑みれば、株主総会決議不存在確認の訴についても商法第二五二条の活用を肯認すべきである。したがつて、右訴は同法条で準用される同法第八八条により、会社の本店所在地の地方裁判所の管轄に専属するのである。

ところで、同法第八八条にいわゆる「本店ノ所在地」は、登記簿の記載によつて決すべきではなく、あくまで現実の本店所在地によるべきである。けだし、商業登記の基礎たる事実が存在しない場合には登記がなされても何らの効力が生じないからである。取締役解任決議無効(又は不存在)確認訴訟において、一応現時の代表取締役を会社代表者となすべきであり、無効な(又は、不存在の)決議によつて解任された当該取締役を代表者とすべきではない、とされるのは、右決議の有効(又は存在)を主張する登記簿上の代表者に会社を代表せしめて決議の効力(又は存否)を争わせるのが確認訴訟の法理に適うものであり、解任という自己に不利益な決議を受けた者を会社の代表者とするのでは、馴合訴訟となつて確認訴訟の目的に副わないからである。したがつて、取締役解任決議無効(又は不存在)確認の訴において登記簿上の代表取締役を会社代表者とすべきであることを以て、本店所在地も登記簿上の記載に依拠すべきである、ということはできない。

これを本件についてみるに、記録によれば、抗告人会社は相手方ら抗告人会社の株主に招集通知をすることなくして、株主総会を開催、決議を経たとして、昭和四六年一〇月二三日に同月一〇日付で本店を肩書地から肩書送達場所に移転した旨の登記手続をなしたことが認められ、右事実によれば、本店移転の決議は存在しないものというべきであるから、本件仮処分提起当時の抗告人会社の本店は従前どおり肩書地にあつたものというべきである。

よつて、本件仮処分申請事件は京都地方裁判所の管轄に専属するものというべく、抗告人らの移送の申立を理由なしとして却下した原決定は相当であり、本件各抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(柴山利彦 弓削孟 篠田省二)

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